【いぶさな農場のご紹介】
竹の谷蔓牛導入から12年。(竹の谷蔓牛は黒毛和牛です)
口蹄疫で牛が一頭もいなくなったところからスタートしたいぶさなですが、
導入した竹の谷蔓牛の母牛からコツコツと自家繫殖で増やすこと12年。
いぶさな農場での竹の谷蔓牛の保有数は40頭超えてました。
竹の谷蔓牛の現存頭数(12年前は10頭ほど母牛が残っているだけでした)と遺伝子資源(父牛は精液ストローとして数頭分が保存されていました)は限られているのでの交配は慎重に行う必要があります。簡単に言うと、母牛と父牛の組み合わせをどうするかということです。ここで組み合わせをよく考えておかないと親子の掛け合わせが続いてしまい、最悪竹の谷蔓牛が途絶えることになり兼ねません。
200年前から近親交配(親子の掛け合わせばかりを繰り返していたわけではありません)を行いながら、理想の体型が子に引き継がれる確率を高められるように作り上げられてきたのが竹の谷蔓牛です。
そういった先人達の努力のかいあって、現在我が家にいる竹の谷蔓牛を見ると親子間で非常に似た体型の牛が多いです。
体型を見るとあの牛の子だな、とわかります。これがどれほどすごいのか評価を計ることはできません。
ですので、現代の黒毛和牛の繁殖について思うことを書いていきます。
【竹の谷蔓牛と現代の黒毛和牛の両方を飼育してみて気が付くこと】
一般的な現代の黒毛和牛はサシのよく入る種牛の子が人気ですので、こぞって繁殖農家(子牛を生産販売する専門の畜産農家)は人気の種牛の精液ストローで受精を行い子牛を作ります。ですがその子牛がどれ程親牛の形質を受け継ぐかは運次第なのではないかなと思うことがあります。同じロットの受精卵で生まれた子牛を見比べても本当に兄弟?と思うこともあります。もちろん皆さんプロなのでただ人気の種牛を選ぶだけではありません。母牛の性質を見極め、より理想の子牛ができるように研究します。
現代の黒毛和牛の歴史を簡単に振り返ると、100年程前から海外の牛と日本各地の名牛の良いところを組み合わせようと改良のための交配が積極的におこなわれました。近年では特にサシと増体重視の改良が取り組まれています。ですが、あまりにも多様な掛け合わせを行ったためなのか、同じ血統の組み合わせで子牛を作っても似た子牛が生まれる確率は私の感じるところとして高くないように思います。うちでは竹の谷蔓牛の母体の活用として、実験もかねて黒毛和牛の受精卵子牛作りにも取り組んでいますので、その取り組みでの感想です。
これは竹の谷蔓牛と現代の黒毛和牛がどういう考えのもとで改良されてきたのかの違いでこういった結果になっているのかなと考えています。
【和牛農家が直面している問題】
今、和牛繁殖農家は子牛づくりにおける種牛選びに苦戦しています。サシの入る種牛ばかりが人気になると、どうしても遺伝子が偏ってきます。3代祖をみると同じ種牛の名前が複数出てきます。竹の谷蔓牛も同じ種牛が3代祖に出てくることは同じですが、時間をかけて近親交配をする中で奇形に関する遺伝子は明確に排除してきました。ですので、近親交配を行っても奇形子牛が生まれる危険度は低いです。しかし現代の黒毛和牛はあまりにも急速に多様な交配が行われてた後、近年はサシと増体の良い種牛に傾向し、結果、どの種牛を選んでも近親交配になってしまうという状況になっています。このような交配の方法では奇形児が増えるなどのリスクがあります。これを続けると和牛が立ち行かなくなる日がきてしまいます。既に多くの畜産農家が懸念を抱いていることです。
【和牛は見た目で美味しいの?】
ではどうすればこの極度の偏りを緩和することができるのでしょうか。それは和牛を食べる人たちが格付け評価だけが全てではないという認識を持ってもらうだけで変わっていくのではないかと思います。
サシ=美味しい、よりも食べて美味しいお肉もきちんとした価格で評価されるようになれば和牛の未来はもっと広がると考えます。格付け(サシ量・色見などの見た目中心で評価が行われる仕組み)評価があることで効率的に値付けができますし、肥育農家もA5を作れば値段が高く売れるという明確な目標になる利点はあります。ですが、それは食べる人目線ではありません。食べる人もきちんと判断できるようになるだけで和牛評価の多様性につながります。
それが浸透すればサシを追い求めるだけの繁殖を行う必要もなくなり、肥育農家も一つの価値観に囚われることのない自由な肉づくりが可能になるのではないでしょうか。
こうなれば竹の谷蔓牛の遺伝子が役に立つ世の中になるかもしれません。その時のために備え、地道に竹の谷蔓牛の保存を続けています。
和牛を食べる時には、味わいと香りと食感をじっくり感じてください。自分の舌が何を求めているのを知ることが大切です。A5の評価の牛肉全てが美味しいのか、見た目の評価が味なのか一度考えてみてください。
それが今後の和牛業界を動かす一歩になります。